ハッピーエンドの力強さー少年社中「MAPS」
少し前にメモしていた感想をせっかくなので持ってきました。
少年社中「MAPS」
2018/6/22 マチネ
舞台セットはごくシンプル。いくつものブロックが積み上げられてるだけなんだけど、それを役者さん自身が動かし組み立てるというスタイル。冒頭、まだ客電も落ちる前に南さん演じる漫画家(もしかしてまだその時点では役者さんご自身としての登場なのかもしれない)が舞台に出てきて黙々とブロックを動かしていく姿が印象的です。
そして流れるボレロ。気持ちは否応にも盛り上がる!
社中さんの舞台は1冊の本だなあと思う。図書館で見つけた本でもいいし、本屋のすみっこにあった1冊でもいい。どんな物語が始まるのかどきどきわくわくしながら扉を開けて、1枚ずつページをめくっていく感じと似てる。
漫画家のストーリーを中心に、彼のイメージに合わせて伊能忠敬の物語が流れるように入り込み、冒険家の物語は波のように押し寄せる。
私は特に伊能忠敬の物語が好きでした。
伊能忠敬は実家がわりあい近くにあって、彼の記念館に行ったこともあるのでなんとなく身近に感じている人物です。もう、忠敬さんの情熱がすごいの。さんざん商才を奮ったあと、イチから勉強をしてやがて地図作りを始め、何度挫折しても諦めない。
その情熱の理由、原動力として「MAPS」が提示したものはあまりにもロマンチックで。岩田さん演じる伊能忠敬が女房に告げた愛の言葉は、すごくストレートで真っ当で、でも重ねられた分だけ心に深く残りました。
忠敬さんはこの舞台上で一番の年長者だったと思うのだけど、そのせいか物語における大人力のようなものを一手に引き受けていた感じ。赦しというか、諦めというか…?
ご夫婦、親子、伊能家の関係がとても素敵。息子役の伊勢さんもすごく良かったなー。
冒険家の物語は、社中さんらしい(と言えるほど私はまだ知らないけれど)ファンタジーな世界観。ストライプとギンガムチェックの衣装がとってもかわいかった!
社中さんの舞台はいつも衣装が凝ってて素敵ですね。パンフレットのビジュアルイメージも無国籍な雰囲気が素敵でした。
白状すると、ライアの登場の仕方がまるで主人公のようだったのと冒険家が「船長」と呼ばれてるのと印象がわやとしてるのとで、最初はどっちがどっちだっけ、とちょっと迷いました。すまぬ。今になって思うと、歴史上の人物である伊能忠敬以外に固有の名前を与えられているキャラクターってライアだけなんだなあ。もちろん「Liar」嘘つきってことですね。なるほど。
楽園の住人、感情の名前を持つみなさんは、それぞれ個性が強く、たった1人が舞台上にいるだけでも圧がすごかった。なのだから快楽至上主義者と永遠なる怖れの戦いはとにかく濃いなー!と圧倒されていました。少年漫画のようだった。
漫画家の物語は少し複雑で、今になっても何が嘘で本当だったのか、ちょっとあやふやです。もう一回観たいよー!けれどクライマックスでの漫画家の台詞は真実で、私にはどの台詞よりも強く響きました。
「物語は必ず完結させなければならない、そしてハッピーエンドでなくてはならない」
これは毛利さんの、そして少年社中という劇団の宣言なのだろうなあ。創作における信念。
そして冒頭の群唱にあるように、これは「あるいはあなたの物語」、私の物語でもある。立ち止まらず進まなければ。最後は幸せでなければ。
こんなの背筋が伸びてしまうし、顔を上げてしまうし、泣いてしまう。
大阪では先日大きな地震がありました。公演当日に目に見える影響はなかったものの、エンターテイメントはそうした非常時の影響を大きく受けやすいコンテンツです。
それでもショウ・マスト・ゴー・オンという精神がある。幕が上がったところにある物語がそういう信念のもとにあるものなら、それはなんて幸福だろう。
ボレロをバックに、OPがEDでも繰り返されます。この演出大好き!
地図があると高らかに言うのはライアではない。もう嘘ではない。
ああ、面白かった!と満足して席を立てること。それが全てとは思わないけど、でも少なくとも私にとってはそれは大きな幸福だったなあ。