すとんと刺さる

ゆるいおたくのよしなしごと

ヒーロー ー劇団鹿殺し『傷だらけのカバディ』

ABCホールは、劇場に上がるときのガランとしたウッドデッキ風階段が好きです。

だだっ広い(というのが合うと思う)階段を上がりきったところにその日の演目を知らせるポスターがぽつんと張り出されていて、下から見上げると、自分のいる階段下が日常で、上がりきったそこが非日常への入り口だという感覚になります。

といっても今回は、非日常というほど夢見心地な時間を過ごしたわけじゃなくて、現実のほろ苦さや泥臭さもある舞台でした。それでもすごく楽しかったし面白かったし、毎回階段を上がったときより下りるときのほうが絶対元気になってたから、その時間が幸せなものだったことは確かです。

千秋楽を迎えてからもう一週間が経つけど、今もまだ、楽しかったな〜〜〜!!という気持ちが続いています。なきたくなったら!カバディしよ!ってふいに口から出てしまう。劇場出た瞬間からすぐにまた観たくなってしまったから、これは完全な「傷カバ」ロスと言えましょう。円盤早くほしい。

何回でも書いてしまうけど、すごく楽しかったです。

インド映画らしく(違うけど)唐突に始まる歌とダンスがとにかく良かった!マイク無しの舞台なのに、そのときには普通にハンドマイクを持って歌う演出が楽しくて好きでした。ダンスの振動が座席にも伝わってくるし熱気のせいか物理的にも暑いし、舞台のライブ感というのをいつもより強く意識できたのは劇場のキャパによるんだろうなあ。ABCホールのキャパは約300席。夏に『天守物語』を見た近鉄アート館と同じくらい。熱気が直に伝わってくるこの大きさが、「劇団」のお芝居には合ってるのかも。

話の内容だけでいうと決して楽しいばかりじゃなくて、現実は甘くないし世間は厳しいし、取り返しようのない悲劇も起こっていて、綺麗事ともほど遠い。前の記事にも書いたように、挫折と再生の物語、負けてしまった人たちの話です。人生を変えるために金メダルを目指して、でも夢は半ばで潰えてしまう。いわば負け犬たちがもう一回栄光を取り戻そうとするんだけど、それもやっぱり叶わない。結局、最後まで現状の解決はできてないんだよね。その糸口をもらったというだけで。

カバディは敵陣から無事に帰ってきて初めてポイントになる競技、と作中でも説明されますが、居場所を失った彼らが、また帰ってくる場所を見つけた話なんだったと思います。傷だらけでも、手をつなごう、顔をあげようっていう話。それをあの音楽で彩ってくれるんだから、そりゃ元気になっちゃうよね。

 

鯉ちゃんことエースこと、鯉田が本っ当にかっこよかったです。チームのエースでヒーローのようなのに、メンタルは弱くて、 敗北と正面から向き合えない。でもやっぱり誰よりエースでヒーローなんだよなあ〜〜〜!!

彼の印象的な場面はたくさんあるんだけど特にふたつ、ひとつはファイブスターとの試合で攻撃に出たとき。もうひとつはインド戦、「俺が行く」と前に出たとき。

ここで関係あるようなないような昔話をはさみますが、ペダステ総北新世代篇のとき、演出家さんがとても椎名さんに関してとても印象的なツイートをされてたのです。

インド戦での鯉ちゃんを見て、思い出したのがこのツイートでした。本当にこんな感じだったのです、もうほんとに。

物語の中でも試合場面でも歌っても踊っても、とにかく真ん中力が際立ってました。キラキラしてた。10年後の擦れてしまったところから、だんだんと目が輝きを取り戻していく姿が鮮やかでした。あの酒やけのようなかすれ声どこから出してたんだろうな…あと横顔が美しかったです。あとふくらはぎの筋肉*1。あと顔小さい!!(あとが多い)

ところで、アクロバットもあって体力的に本当に大変そうな舞台だったのだけど、台本のト書きに【バク転などで避けて】とさらっと書いてあってちょっと笑いました。いやいや、そんな歩く走るみたいに簡単に書いて……!バク転ですよ?さらっとやっててかっこよかったけども。

キコの存在は、心に刺さるものがありました。だってキコの「応援するふりして人の人生に乗っかって」というのはある意味では私自身のことでもあるから。もちろんフリなんかじゃないけど、でも言葉にされると苦しくなってしまう。それを言われて無理して笑うキコも、言ったそばから後悔してる鯉田の表情も、どっちも辛かったです。その言葉を引きずりながら、でも逃げないキコは強いなと思う。鯉ちゃんはラストドリームのスタッフとしてキコ代表に雇ってもらおう…ラクシュミーの強くて聡明なお嬢さんっぷりも素敵。彼女がいるならブッダも大丈夫だろうなあって思える。登場人物たちはそれぞれだめでキュートで魅力的で、でも顔だけは本気で反省しなさいよねって思いました。もちろん林原龍二はすごくいいキャラクターで大好きです。それを踏まえてやっぱり反省して。登場シーンすごく面白いよね…桃汁ブシャーっ。

座長さんが椎名さんのことを、アフトでは「丁寧に生きてる」と、千秋楽カテコでは「『傷だらけのカバディ』の精神的支柱」と紹介してくれました。

千秋楽はスタオベができたこと、みんなで一緒にWe love カバディ!できたことも嬉しかったです。

 

すごく曖昧な言い方をするけど、劇団でのお芝居が似合う人なんだなあと思いました。もともと2.5舞台にあってもキャラというより生っぽい演技をする印象ではあったけど、 例えば後悔に唇を噛んだり、肩を痛めて腕がずっと小刻みに震えてたり、苛立ちに足踏みが止まらなかったり、そういう細かい演技をずっと続けていて、ああこの人はこの板の上では鯉田として生きてるんだ、と。もっといろんな場所で、いろんな役でも見てみたいです。この舞台に出演してくれて、そして観ることができて本当に良かった。

 

そうこうしてるうちにもう来週がイベントです。会話のイメトレをしなくては…あと何を着ていこう…

*1:小型高性能…!と思った