すとんと刺さる

ゆるいおたくのよしなしごと

それは呪いのような ー少年社中『天守物語』

すっかり少年社中ファンになってしまったので、過去作も少しずつですが円盤で追っています。それで思うのが、社中作品ていわゆるハッピーエンドが主流ではないなあということ。『MAPS』では「ハッピーエンドでなくてはならない」と言ってるけどこのハッピーはたぶん、すべてまるく収まってめでたしめでたし、の意味じゃない。

だいたいの作品で死が訪れ、物語に影を落とす。だけどそこには強い肯定感があって、乗り越えた先には光が差してる。この暗闇の先の光はハッピーと言えなくもないけど、めでたしめでたしとは言いがたい。少なくとも私は、そういうのが少年社中らしいと感じます。

手放しでこれはめでたいと終わったのって、今まで見たのだと「三人どころじゃない吉三」くらい。こいつぁ夏から縁起がいいわぇ。でもあれは、ひとえに鈴木拡樹という役者の存在によるものではと思ってます。同じく鈴木さんを真ん中に置いたロミジュリは未見なのだけど、見たらその辺について考えたい。

前置きが長くなったけど社中さんの「天守物語」を観てきました。その上で、「生きろ」という強いメッセージのある物語でした。 

少年社中第37回公演『天守物語』

以下、ネタバレも含みます。

 

すごくすごーーく良かったです。

大阪公演の近鉄アート館は舞台と客席が近いこともあり、夜中に間近で焚き火とかキャンプファイヤーしてるのを見たような感覚。刺激的というのとも違う強烈さだった。

ひとの生き死にというのは少年社中にとってはきっと切り離せないテーマとしてあって、それを受け入れ飲み込んで、そして顔を上げる、前を向く。というのが今までの印象だったけど、この『天守物語』にあるのは、生に対する前向きさというよりもっと強い意志、それでも生きなければならないという業や呪いに近い祈りのようでした。初演は8年前、震災から3ヶ月後。当時はもっと切実な祈りだったのだろうし、さらに8年後にはまた違った印象になるのだろうと思いました。

 

舞台上のひとたち、それぞれ美しく、力強くて良かったです。

猪苗代の御一行が好きだな。あやかしらしく人間の情や理とはまったく別の感性で動いていて、ユーモアも残忍性もある。亀姫がキュートで好き。えりさんの少女性って井俣さんの少年性と同じく少年社中を少年社中たらしめる重要なファクターだなあと思います。悪いのだいたいこのひと(お亀様)だったけど。

姫路のみなさんは華やかでした。富姫様が立ち姿から声から、圧倒的に綺麗なのも良かったし、侍女ちゃんたち可愛かった。葛役の長谷川かすみさんが本当に可愛くてまた観たいです。薄さんが優しくて素敵。

そしていちばんギャーン!となったのは鷹です。本っ当に素晴らしかった。OPのダンスから始まり、納谷くんの身体能力がいかんなく発揮されてました。役柄の魅力もあるんだけど鷹としても童子としても素敵で、特に富姫とのシーンで「寂しい…」と言うところ、ときめきがすごかったです。大変すごかったです。納谷くんは小柄なこともあって少年役が多いイメージだけど(実際まだまだ若いし)、最近は精悍さも増したせいか、こういう大人の男性の役の方がしっくりくるかも。

あとはなんといっても桃六。原作では典型的なデウス・エクス・マキナ、突然飛び出す神様だったキャラクターが、より立体的になってました。この桃六は獅子頭とイコールの存在だよね、きっと。だからなんか知らんうちから舞台上にいて、ただ一人、あやかしとも人間とも鳥とも言葉をかわせる。獅子頭は全能だけれど誰かに願われない限りは無能と同じで、ただ見ているしかできない。そういうやり切れなさが、最後のあの「苦しみながら生きろ、踊れ」という呪いのような祈りに繋がるんだろうと思いました。呪いのろい言ってるけど、あれは桃六の心からの祈りだ、きっと。

北村さんの存在感もすごかったです。あの顔でただの人間なわけあるかっていう。もうそこにいるだけで普通じゃない。異質さを感じるほどの綺麗さってそうないよね…草臥れた着物に白髪混じりのざんばら頭、顔にかかる髪から覗く目が美しかったです。彼を見るといつも思うけど、きたむーの表情が好きだなー!最後の目の力強さが印象的です。ギラギラしてた。

 

すごい、すごい面白かったな…。最後暗転して音楽だけが残っていて、でも舞台のあのひとたちは暗闇の中でもまだ踊っているんだろうと思った。たぶん、ほんとに。

「生まれたからには生きなくてはならない」という台詞はちっとも優しくないけど、 でもそれくらい強い意志でもって、這ってでも生きなくては、と思います。そしたらまたこんなに面白いものに会えるよ。

そうして推しくんのときめきシーンがいつか見たいよ!!